アラブ首長国連邦、唯一の世界遺産、アルアインオアシスを目指す
2日目、舞台はアラビア半島へと移動する。
アルアインの概略図を示す。
ドバイからアルアインへ
朝の5時、飛行機は順調なフライトを終え、石油王の国アラブ首長国連邦(以下UAE)、ドバイに降り立った。
ドバイの空港へは鉄道が直結している他、バスも頻繁に運行している。入国審査を終えた私は、息を整えて気合を入れなおすと、バス発着場に出た。
エジプトよりもさらに厳しい暑さが上から覆い被さってきた。
この市バスに乗るためにはドバイの交通プリペイドカードを作成し、デポジットを入金する必要がある。ところが、バスターミナルにあるこのカード自販機が壊れており、鉄道駅の方で作ってもらうしか方法が無いと言われてしまった。
今度は鉄道駅に向かうと、たくさんの人が通路に座り込み、駅が開くのを待っていた。日曜日となるこの日は、始発が8時17分なのだそうだ。
駅が開くまで3時間弱、私は空港から出られなくなった。(正確にはタクシーを使えばいつでも出られるのだが、それは選択肢に無かった)
駅が開く8時まで、手ごろなベンチを見つけて空港のベンチに体を預けるように倒れこんだ。疲れも眠気も一向に取れず、浅い眠りにしか就くことができなかった。このとき、すでに体には怪しげな予兆は現れていた。
ドバイメトロはきれいで涼しく、実に快適だった。音もなく滑るその鉄道は大都会の中心へ私を運び入れた。アル・グバイバ駅で降りると、目の前のバスターミナルへ向かった。
この辺りは高層ビル群というわけでもなさそうだ。
初めて降り立ったドバイの街は、石油王たちが高級スポーツカーを乗り回しているものだとばかり思っていたが、そういうわけでもなさそうだった。日本と同じで、いわゆる”普通”だった。
徒歩すぐのアル・グバイバ・バスターミナル。清潔感がある。
アルアイン行きのバスは人気の路線らしく、出発前からかなりの行列を成していた。強烈な日差しの降り注ぐ中、屋根のない野外で待つのは些かしんどかったが、時刻がうまくかみ合い、バスはすぐに来た。
普通の旅人なら、もう少しドバイの街並みを見て回るのだろうが、私は世界遺産の無いこの町にはあまり魅力を感じなかった。
冷房の効いた車内に乗り込むと、ドバイを出発した。
出発した記憶はあるが、その後はふと意識が途絶えた。薄れゆく意識の中で、どんどんと体調が悪くなっていくのを感じた。
アルアインのオアシス
ふと気が付くと2時間以上が過ぎていた。車窓が砂漠から民家の景色に変わり、街の中心に近づいてきた。
アルアインの中央バスターミナルだ。
アルアインはアブダビ、ドバイに次ぐ第三の都市であり、オマーンとの国境があることでも知られている。が、前述のアブダビ、ドバイと比較して特段に魅力的なものがあるわけではなく、UAE唯一の世界遺産”アル・アインの文化的遺跡群“があるだけと言っても過言ではないだろう。
そして、アルアインの文化的遺跡群は、この地を訪れる日本人観光客が少なすぎるため、情報がほとんど無く未知な世界遺産なのである。
世界遺産そのものはいくつかの構成資産に分かれているのだが、いずれも砂漠の遊牧民が暮らしていた跡やオアシスなどが評価され、登録されている。いくつかはレンタカーでしか行けない山のふもとにあるのだが、オアシスの一つと考古遺跡は市内にあり、アクセスがしやすい。
まずはバスターミナルの裏手にあるオアシスを目指した。
徒歩数分の道のりなのだが、アラブの気温は容赦がなかった。私はよくある映画のシーンのような、オアシスを求めて荒野をさまよう漂流者と化していた。
ようやくオアシスのゲートを見つけた時には、自然と口の中も潤うようだった。
ゲートに近づくと、若い研究者のような陽気な男性が私にオアシスの地図を差し出し、嬉しそうに見どころの説明を始めた。4000年前の古代から続く灌漑システム、ファラジを使用し、地下から水をくみ上げて農耕地に供給しているのだそうだ。
現在もナツメヤシが栽培されており、その数は敷地内で150000本近くになるという。
果物や野菜も栽培されており、食物、水を供給する重要な場所で、文字通りのオアシスなのである。
アルアインの一番の見どころのはずなのだが、燃えるような炎天下の中でほっつき歩いているのは私だけで、数人の作業員の他は恐ろしいほど誰も歩いていなかった。
オアシスはかなり広い。気の遠くなるような思いで私は見どころの順路を歩いた。すると、軽快な走行音を立ててトラムが私を追い抜いていく。涼しげな顔で乗っている観光客。
“トラム、あったのかい!”
オアシスの中央部には水路があり、古来からの工夫が見学できる。奥にはトラムが止まっている。
砂漠を生き抜く工夫が凝らされた、実にUAEらしい世界遺産だ。
世界遺産、と言われなければこの場所のことは全く知らなかっただろうから、一生来ることもなかったのだろう。そう考えると、なかなか面白い旅ではないか。
ナツメヤシの群生がどこまでも続く。のどかな世界遺産だ。
1時間近くかけてオアシスの見どころを踏破し、反対側の入り口に出た。
オアシスの西側は居住エリア、王宮などがあり、実際に住んでいた痕跡を感じることができる。
隣接するアルアイン王宮に向けて、私は歩みを進めた。
砂漠の王宮
アルアインのオアシス西側を道に沿って南側へ歩いていくと、特徴的な建物が見えてくる。アルアイン・パレスである。
いかにも砂漠の砦というような門構えのアルアイン王宮。
この王宮は確かに広くて美しいのだが、どこか新しさを感じる建物だった。UAE初代大統領シェイク・ザーイド・ビン・スルターン・アル・ナヒヤーンの邸宅を一般公開の状態にしたものらしく、最も古い部分で1937年の建築なのだそうだ。
現在は博物館のように彼の生涯についての展示があり、なんと入場は無料なのだが、こちらは世界遺産ではない。よって私の興味も薄く、さらっと見るだけで終わってしまった。
砂漠の気候に適応した、伝統的なアラビア建築様式が採用されているそうだ。
開放感のある涼しげな中庭。彼らの暮らしの様子が想像できる。
午後を少し回ったところ、炎天下のオアシスを歩き続けたことで、手持ちの水はスッカラカンになっていた。王宮の前で自販機を見つけると私はそれに飛びついた。
次の目的地の遺跡の場所が謎だった。
アルアインの地には他にもいくつか世界遺産の構成資産があり、砂漠の民の生活痕が残る遺跡が見られるはず。なのだが、悲しいことに日本語の情報サイトは全くなかった。
その遺跡がどこにあるのかもパッとせず、アルアイン王宮のお姉さんに聞いても首をかしげるばかりであった。
とりあえず北の方にあるらしいので、なんとなく北方向へ走るバスに乗車した。が、そのバスが西方向の街のはずれに向かいそうだったので慌ててショッピングモールの前で降りた。
あまりにも情報が無さ過ぎて途方に暮れていたのだが、Googlemapで検索をするとそれらしき場所にピンが刺さっていることに気がついた。
気乗りはしなかったが、モールの前でタクシーを捕まえるとスマホを見せてその場所へ向かってもらった。
車は3車線の太い通りに入り、街の中心を出て、ぐんぐんと加速していく。それに比例してメーターも上がっていく、、
片道1500円くらいの料金を支払って着いた場所は、世界遺産の遺跡、、、
ではなかった。
街角にある小さな小さな複合商店施設だった。中規模のスーパーマーケットにいくつか商店が連なっている、よくある施設だ。私もドライバーも確認したが、Googlemapのピンは確かにそこを指していた。だが、そんなスーパーの中に世界遺産の遺跡があるはずなんて、無かった。
ショッピングセンターの隣に寂れたモスクがあるが、これは無関係だろう。
周りは一面、荒れ地が果て無く続いているように見えた。
私はアラブの荒野の真ん中で、途方に暮れた。
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