アブダビの華、シェイク・ザイード・グランド・モスクに向かう
3日目、アラビア半島での冒険、中盤。
蜃気楼のアブ・ダビ
中東旅行の3日目、UAEオマーン国境の街、アル・アイン。気持ちの良い目覚め、とはいかなかった。
前日は夕方から倒れるように寝込んだが、目が覚めると、のどが焼けるように痛かった。風邪か、ウイルスか、ファラオの呪いか、とにかく体調が最悪だった。
後にスマートウォッチの心拍数・ストレス度で判明したのだが、旅行中の体調不良はこの日がピークであった。
まだ朝の7時半だ。このままホテルでマスカットに向かうバスを待っていても良いのだが、せっかくUAEにいるのに無駄に半日を使いたくは無かった。
じっとしていられない性分の私は、アルアインのバスターミナルで面白そうなバスに乗って移動することにした。
再び、アルアインバスターミナル。喉の腫れで声がかすれ、頭痛もあった。
メインのバスはやはりドバイ行き、アブダビ行きの2路線でバスは本数がたくさんある。今後の計画をスマホで調べると、夜の便でアブダビからバーレーンに飛ぶ安い飛行機が取れそうだった。
体調不良よりも冒険心が勝った私は、実にチャレンジングな判断だったが、アブダビへ行って観光し、夜にそのままバーレーンに渡ることにした。
チケット売り場のお姉さんに、“やっぱりアブダビに行く”と伝えると、“オマーンに行くんじゃなかったの??”と言いたげな怪訝な顔をされてしまった。
当初のプランはここで崩れ去り、全く計画に無かったアブダビへ行くことになった。アブダビについて、特に予習をしていたわけではなかったので、“なんかすごいモスクがあるらしい”ということぐらいしか、知らなかった。そんなノリだった。
バーレーン行きフライトのチケットを取り、アブダビ行きのそこそこ混んだバスに乗り込むと、深い深い眠りに就いた。
・・・・・
・・
2時間が過ぎ、寄りかかっていた窓が熱くなってきて目が覚めた。バスは相変わらず砂漠の真ん中に伸びる幹線道路を走っている。
この道路が不思議なもので、両側は完全な砂漠である。道路に沿うように南国らしい植物が植えられ、その道路周辺だけ申し訳程度に自然な緑が育っていた。しかし、道路を外れると、その先はどこまでもどこまでも、砂漠だった。
バスがスピードを落とし始めると、前方の砂漠にゆらゆらと高層ビル群が揺らめいているのが見えてきた。蜃気楼の先にある、華やかな大都会。
アブ・ダビだ。
シェイク・ザイード・グランド・モスク
アルアインからのバスは高層ビルの乱立するエリアよりも手前の、大きなバスターミナルで停車した。時刻はお昼前、11時だった。
アブダビの物価を想像して戦々恐々としていた私だったが、バスターミナル内のケバブ屋は非常にお財布に優しい価格で、利用しているのも労働者や旅人が多かった。
肉を摂取して多少の元気を取り戻した私は、言われるがままアブダビの交通系カードを発行した。
そして、アブダビ最も人気の観光地、シェイク・ザイード・グランド・モスクに行ってみることにした。
アブダビのバスターミナル。お金持ち感は全くない。
アルアインとは異なり、番号の違うバスがひっきりなしに行き交っている。
言われた通り94番バスに乗って30分、アブダビの車窓を眺めながら過ごしていると、どんどんと町外れの方に向かっていくようだった。
終点まで乗っていたのはせいぜい7.8人くらいだったと思う。アブダビ中心部からはかなり離れた場所で私は降り立った。
異様に大きく白くて荘厳なモスクは遠くからでも見えた。
この日も地上には熱波が降り注ぎ、遠目に見えるモスクは揺らめいて見えた。
モスクへの入り口は円形ドームから入った地下にある。
地下はショッピングモールになっていて、マクドナルドやスターバックスなどどこの国でも見かけるチェーン店がたくさん入っていた。
地上ではほとんど見なかった観光客は、涼しく快適な地下に避難していたのか、たくさんいて混んでいた。
モスクは予約が無いと入れないとのことだった。が、実は救済措置があって、モールの端っこに当日券の発券コーナーがあり、タブレットが20台くらい置かれている。そこで自分で予約を取り、時間になればQRを見せて入場ができる。
予約を取ったことで安心して心が緩んだのか、ここで体調不良がぶり返し、強烈な眠気が襲ってきた。
10日間の旅行の中で、シェイク・サイード・グランド・モスクの入場前の地下に居たこの瞬間が、体調不良・心拍数のピークだった。
麗しき砂漠のモスクのカプリティオ
朦朧とした意識の中で、チケットの時間になり私はゲートへ向かった。まずはモスクの歴史や大きさ、建築などの解説があるブースへ。
特に見応えがある場所ではなかったので早足で先へ進んだ。
ちなみにシェイク・ザイード・グランド・モスクの建設は1996年に始まり、2007年に完成したそうだ。命名はUAEの初代大統領にちなんでおり、UAEの象徴となるような施設を目指して建てられている。総工費はなんと約5億4千万ドルに及ぶという、いろいろと桁違いのモスクなのだ。
非イスラム教徒にも開放されており、我々外国人旅行客も無料で入ることができる。服装にはかなり細かい規定があり、男性の半ズボン、サンダル等は望ましくない。そして、女性は特に肌の露出の無い恰好が求められる。
厳格な荷物検査を経て進むと、ものすごく長い地下通路が奥へと続いている。
長すぎて動く歩道の他、トラムがシャトル運行している程だった。
体調不良の時の狂った夢の世界のような幻覚を見ながら長いこと歩き続けると、ようやく地上への出口が見えてきた。エスカレータを昇ると、目の前には純白の荘厳なモスクが佇んでいた。
ディズニーの中のような、異国を感じる佇まい。
UAEの潤沢な財力をふんだんに使用したモスクだ。
イスラム建築の伝統と現代的なデザインが融合した壮大な様式で、アラビア、ペルシャの他、インドやモロッコなど様々な地域の建築様式が取り入れられている。そびえ立つ4本のミナレットはいずれも高さ100mを越える。
手前側の中庭は17000㎡と、これまた桁違いな大きさだ。
内装も植物や幾何学模様をモチーフに彩られている。
砂漠の中に聳える城のような巨大なシェイク・ザイード・グランド・モスクに、私はドラクエ7 を思い出した。
封印された砂漠世界を舞台にハディートだかサイードだかと共に冒険をするのだ。最初に城に入った時に流れる“封印されし城のサラバンド”が絶望感を煽り、砂漠に影を落とす。
こちらのモスクは建築年代が比較的新しいので世界遺産マニア的に特に魅力は感じなかったのだが、幾何学模様の繰り返しと頭痛・眠気で、狂想曲がヘビーローテーションしているようだった。
ここがモスクの中心部。荘厳な外観の割に、内装はシンプルだ。
メインのドームは高さ80m以上、直径も30mを越え、4万人を収容できるのだという。金曜の午前は毎週祈りの場となっており、この日だけは観光客も午後からしか見学ができない。
敷かれた絨毯はペルシア絨毯で、世界最大の手織り絨毯なのだそうだ。シャンデリアはスワロフスキーのクリスタルを使用しており、こちらも世界最大級なのだとか。太っ腹なことにこれだけの建物にも関わらず入場は無料で、観光客は途切れることなく続いてきた。
しかし、これだけの豪華絢爛な建物を見て一ミリも興奮を覚えなかったのは、あまりの具合の悪さに体が悲鳴を上げていたからだった。
昼の一番暑い時間帯に差し掛かり、アラビアの酷暑が私を捉えようとする。慌てて地下通路に逃げ込むと、トラムに乗るために並ぶ大行列を横目に、入り口ゲートに向けて歩き出した。
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