パークセーからヴィエンチャンに向かう、寝台バスの中で 【カンボジア-ラオス-タイ】旅行記3日目後編

パークセーからヴィエンチャンに向かう、寝台バスの中で

 

再会

スリーピング・バスの文字に惹かれて入った店で出迎えてくれたのは、大柄な男性店員だった。看板にあったヴィエンチャン行のバスの空席はまだあるか、と尋ねると、この時間だからもうないかも、確認するから待っていろ、と言われた。それもそうだ。今は16時、この日の20時に出発する寝台バスの空席など、そうそう余っているはずがない。

しばらく電話で話していたその男は、最初の険しい表情からだんだんと柔らかい笑顔になり、私の顔を見て親指を突き上げた。グーサインだ。

1席だけ、空いているらしいぜ。当然乗っていくんだろ?

半ば挑むような、いたずらっぽい彼の口調に倣って、私はOf course!と親指を突き立てた。

バスの出発は20:00だが、19時過ぎにトゥクトゥクで送ってやるからここに戻ってこいとのことだった。シャワーやトイレも貸してやると言われたが、せっかくなのでパークセーをぶらついて時間をつぶすことにした。

ヴィエンチャン行きのめどが立ったことで勢いづいてパークセーの街に出てきたが、特にやることはなかった。タラート・ダーオフアンという、巨大なマーケットが有名らしいので、なんとなくそこを目指して歩いた。

パークセーで見つけた変な日本語。”小さな巨人”ってなんだろう。

チケットを買った店から30分くらいだらだらと歩いていたと思う。ラオスの人々の暮らしぶりを感じながら進むと、それらしい巨大なマーケットが見えてきた。

確かに、ひときわ目立つ巨大市場。タラート・ダーオフアン。

マーケットの中はたくさんの人が行き交っていたが、店じまいに差し掛かっていた。

巨大なフードコートが有名だと、”地球の歩き方”に書いてあった。

大きなマーケットをうろうろしたり、座って休憩したりしながら、時間をつぶした。突然のスコールにも、慣れた手つきでやり過ごす人たちの様子をぼーっと眺めているだけで、時間はあっという間に過ぎた。

水と食料を買い込んで、19時前にそのチケット屋のもとに戻った。その店からはもう一人の男も同じバスに乗るらしく、19時15分くらいにトライクルに乗った。ものの5分ほどだったと思う。暗くてどんな道を通ったのか定かではないが、ワット・ルアンの近くの大きなバスターミナルに着いた。

そこは周囲の暗さとは対照的な、異様な空間だった。

行先別、クラス別の4台の寝台バスと、旅慣れた猛者たちが集っていた。

大荷物を携え、遠い道のりを旅してきた、文字通り”面構えが違う”バックパッカーたちが、出発の時間を待っていた。その中には、昨日一緒にカンボジア-ラオスの国境を越えた、サウジの青年もいた

ミッドナイト・イン・パークセー

向こうも私に気が付いたらしく、目が合うと少しだけ会話をした。彼もヴィエンチャン行きの、同じ寝台バスに乗るようだった。その後はヴィエンチャンからベトナムに抜けると言っていたので、そこでお別れになりそうだ。

自分が乗るバスを把握できたし、出発までは30分あったので、少しだけターミナルを歩き回った。

チケット売り場はバスターミナルに併設。私は代理店を挟んだが、安く済ませるなら直接ここへ。

ターミナル内にはチップを払うタイプのトイレもあり、また観光客を狙ったたくさんの物売りが集まっていたので飲み食いにも困らないだろうと思った。

15分前になると、バスへの乗車が開始された。指定席なので特に急ぐ必要はないが、少しだけ行列ができた。バスは土足禁止で、靴を脱いでから車内に入っていく。

バス内は2人用のベッドがあるだけなので、貴重品の管理は大事。私はリュック一つなので持って上がったが、スペースを取られて寝にくかった。

私のベッド席は2階で、通路は狭く天井も低いので、この旅の間で何度も頭をぶつけた。

こちらがヴィエンチャン行、寝台バスのスペース。体を横にできるのはありがたい。

基本的にはこのスペースに2人が横たわることになる。男性は男性同士、女性は女性同士でベッドを利用する、というのは鉄のおきてのようだった。

私の隣にいた若い男が、自分の彼女と一緒に寝たいからと、女性と席を交換しようとした。そうなると、私はその女性と同じベッドで寝ることになる。

チケットスタッフが来た時に彼らはずいぶんな口論となり、そのカップルは結局元の席に戻された。

口論の末に戻ってきた、私の隣の男はしばらくは不満そうにしていたが、バスが出発するとあきらめたのか、体を横たえた。

寝台バスということで眠れるか不安だったが、体を横にできる、というのはずいぶん楽なことのようだった。後方に過ぎ去っていくパークセーの街並みをしばらく目で追っていたが、そのうち、しっかりと眠りに落ちていた。

雪隠詰め

20時にパークセーを出発するバスは、予定だと朝の8時過ぎにヴィエンチャンに到着することになっていた。計算すると、実に12時間に及ぶ長旅だった。

バスはラオスのメコン川沿いをひたすら北上し、首都を目指す。その間、休憩は一度もなかった。少なくとも私の知る限りは、無かった。そうなると困ったのは、トイレだった。

私が急な尿意を催したのは、日付が変わった朝方だったと思う。12時間トイレを我慢する、というのはなかなかきつく、私はバスに備え付けられたトイレを利用することにした。

私のいるシートは2階だが、トイレはバスの1階にある。動いているバスの中で、暗い中狭い通路を通り、さらには階段を下りてトイレを目指さなければならないのである。

尿意を我慢しながら、揺れるバスの狭い通路を必死の思いで進む。

何度も低い天井に頭をぶつけながらたどり着いたバスの階段を見ると、衝撃の光景が広がっていた。

一人の男が階段で気持ちよさそうに寝ているのだ。

人一人が通るのがやっとの細い階段で、大の男が気持ちよさそうに寝ており、階段は足の踏み場がほとんど無くなっていた。最初はその男が具合でも悪いのかと思って観察していたが、どうやら普通に寝ているだけのようだった。

この上なく邪魔な場所で寝ているそのドアホウに、よっぽど小便をひっかけてやろうかと殺意に似た感情を抱いたが、私の中の天使が、その葛藤に打ち勝った。

私は手すりにぶら下がりながらわずかなスペースを足で探り、スパイ映画顔負けのアクロバットを決めると階段下のトイレの前に降り立った。扉を開けたそこはトイレ、ではなかった。

悪夢、だった。

ビジネスホテルのユニットバスほどの大きさの部屋には、並々と水がためられた大きなポリバケツが3つ、その奥には和式トイレの形をした便器があった。排水機能がイカれているのか床は水浸しで、ポリバケツの水なのか誰かの粗相なのかはわからない。

確かなことが二つあった。私の膀胱は限界で、このまま、あの男が寝ている階段を引き返すのは不可能だということ。そして、床の水は仕方ないとして、ポリタンク内の水はどうやら比較的きれいだということだ。

一定のリズムで揺れる暗いバスの中で、私は覚悟を決め、靴下を脱いだ。そして、素足になると、その悪夢の中に足を踏み入れた。壁に手をつきながらバランスを取り、ズボンを脱いで便器の上に構えた。頭と体で重心を支え、足の筋肉を使いながらふんばり、やっとの思いで体内の水分をこれでもかと絞り出すと、ポリタンクの水をふんだんに使い、便器と自分の足を清め、脱出した。

私の手記を見てスリーピングバスに興味を抱いた方は、ぜひトイレには注意をしてほしい。あの空間はとても大便をゆっくりとできるところではない。

ミッションをコンプリートした私は、帰りは身軽に階段を這いあがると、リュックから引っ張り出したウェットティッシュで足を清め、手を清め、すべてを忘れて再び横になった。

・・・

・・・

周囲の明るさに気づいて目を覚ました。時刻は6時半。夜が明けていた。

今日もまた、旅は続いていく。

 

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