チャンパーサックの遺跡と寺院と、小さな恋のものがたり 【カンボジア-ラオス-タイ】旅行記3日目中編

チャンパーサックの遺跡と寺院と、小さな恋のものがたり

 

誰もいない遺跡

チャンパーサックの構成資産巡りの最大の懸念点はガソリンであった。ワット・プーの前のよろず屋で尋ねてみると、やはり予想した通り、小分けの瓶に詰められたガソリンが売られていた。

ただ、バイクの給油口の開け方が分からず、しばらく手間取った。その店のおばさんでもわからず、隣の店、そのまた隣の店の人もわからず、と、どんどん人が集まってきたが、それでも給油口が開かなかった。ようやく通りがかった若い兄ちゃんがさらりと開けると、その場で拍手が起こった。

まず、向かうのはここからバイクで30分ほどの距離にある、ナーンシーダー遺跡だ。近いのですぐ着くだろうと思っていた遺跡への道は、想像以上にハードなものだった。

先ほど大雨が降ったせいで道路はぬかるみ、最悪の状態だった。

このナーンシーダー遺跡はそれほど有名ではないため観光地化されておらず、細い道、整備されていない道がひたすら続いた。案内板表示も乏しいため、スマホのGPSを確認しながら、悪路にも注意をしながら、慎重に進んだ。

水たまりのトラップにばかり気を取られていると、前方に牛のトラップも襲い掛かってくる。

民家の間を抜け、さらに川を2回わたる。おそらく、トライクルや車では無理に近いと思う。

ワットプーから慎重に運転すること30分、ようやくナーンシーダー遺跡が見えてきた。この日は修復作業中で、私が訪れるとちょうど作業員たちが一斉にお昼の休憩に向かうところだった。

誰もいなくなった遺跡を一人で見学することにした。バイクはすっかり泥まみれになった。

ワットプーの南側にある遺跡。ここを中心とした城塞都市があったらしい。

現在残っているのはこの崩壊した小さな遺跡だけなのだが、建立した11世紀ごろにはここを中心とした古代都市が築かれ、繁栄していたという。まさに栄枯盛衰である。修復作業に当たっていた作業員たちがいなくなると、その遺跡には私しかいなくなった。チケットを売る人も、遺跡を管理する人も、観光客も、私が来てから去るまで誰も来なかった。

ワット・プーとは全く異なり、がれきの上に建つ遺跡。

発掘作業中と思われる城壁跡。誰もいないので貴重な標本を間近で見られた。

お昼時でもあったので私も木陰で涼みつつ誰かが来るのを待とうかと思ったが、誰も来る気配がなかったので、静かなその遺跡を後にした。

チャンパーサックの寺院群

ナーンシーダー遺跡から悪路を慎重に引き返し、ワット・プー地区へ戻ってきた。ここからチャンパーサックへは整備された道が続くので安心だ。そして街に戻る途中、例のガソリンスタンドが開いているのが見えた。どうやら私は先ほど、開店時間前に訪れてしまったようだった。ガソリンを満タンに入れて憂い事から解放された私は、チャンパーサックの寺院群をバイクで巡ることにした。

チャンパーサックは地方の小都市というほど本当に何もない村なのだが、寺院の数だけは非常に多い。村の人口に不釣り合いな寺院の数々は、ラオスの植民地時代のものも多く、ラオスの複雑な歴史を物語っている。

ワット・プーだけが世界遺産として取り上げられがちだが、これらの寺院群も含めての世界遺産なのである。チャンパーサックに戻ってきた私は、時間と体力を考慮して有名なものだけ回ることにした。

大通りに面したワット・ルアンカオの入り口。派手な龍の装飾が目立つ。

街中にある寺院は問題ないのだが、フランス植民地時代の様相を残す有名な”ワット・ムアンカーン”への道のりは例によってハードなものだった。案内板も地図もないのでGPSを頼りに細い農道を進んで行くしかない。

スマホのGPSだけが頼り。この方角で合っていると信じて進む。

ラオスは仏教やヒンドゥー遺跡があるが、行く途中に見かけたキリスト墓地が印象に残った。

狭い道を走り、木製の心もとない橋を越え、ワット・パノンタイという寺院に着いた。

緑色の柵と派手な門が目印。なかなかここまで来る観光客はいないであろうが、一応。

メコン川沿いに立つのどかな寺院。長居したいくらい、心地よい風が吹き抜けた。

さらに走りにくくなる悪路を、15分ほどは進んだと思う。

ようやくワット・ムアンカーンに到着。チャンパーサックの村から30分が経っていた。

他の寺院群と比較しても明らかに規模も歴史も異なるのを肌で感じた。

こちらがフランス様式を取り入れた建築。目を奪われる美しさだった。

メコン川沿いの寺院群はどれものどかな印象で、自然と調和した素朴さを感じた。境内にいると、時間の流れを忘れてしまいそうになった。一番村から遠いワット・ムアンカーンを後にして、チャンパーサックの村へ戻る。時刻は13時半を過ぎた所だった。

小さな恋のものがたり

バイクを転がしてチャンパーサックの村に戻り、村の中心部にある“ワット・シースマン”という寺院にやって来た。

ワット・シースマンには建物は無い。樹木に挟まれた仏像が有名。

バイクを止め、ヘルメットを脱ぐと、遠くから

ハーイッ!!

という元気な女の子の声が聞こえてきた。遠くから聞こえただけだったので、特に気にすることもなく境内をふらふら散策し始める。と、また

ハーイッ!!!

と、今度はさっきよりも近い場所から、聞こえてきた。振り返ると、小さな女の子が私に向かって手を振っていた。目が合うと、また、ハーイッ!!!と、元気よく叫んできたので、こちらも優しくハーイ!!と返した。名前は聞かなかったが、この子はハイちゃん、とでも命名しようと思う。

メコン川沿いののどかな寺院の境内に、ハイちゃんの声が響き渡っていた。

ハイちゃんは、彼女よりもずっと年上に見える2人の子供たちと一緒に、何やら遊んでいたらしい。このワット・シースマン寺院もよっぽどの世界遺産マニア以外はスルーしてしまうような地味な寺院なので、例によって観光客は一人もいなかった。私のような東洋系の男が物珍しかったのだろう。

子供たちは私に興味を抱いたようだった。しばらくは遠目から見ているだけだったが、私のことを無害そうな男だと判断したのか、彼らは私が寺院の撮影をしている間、静かに後ろをついてきた。邪魔をするでも、チップをおねだりするでもなく、ただ、私のすることなすことをじっとのぞき込み、目が合うたびにハイちゃんは

ハーイッ!!!

と元気に言うのだった。

これが、ワット・シースマンのシンボル。樹木に挟まれた仏像だ。

そのうちにハイちゃんは私の首に下がった一眼レフに興味を抱いたようだった。私は近くの草むらに咲いていた黄色い花を取り、ハイちゃんにあげた。

このお花をあげるから、写真を一枚とってもいいかな?

身振りと手振りでゆっくり伝えると、ハイちゃんは笑顔でうなずいた。

年長のお姉さんは照れて隠れてしまった。チャンパーサックでの小さな出会いだった。

元から見どころがたくさんある寺院でもなかったので、写真を撮り終えた私はいよいよやることがなくなってしまった。少し寂しいが、パークセーに戻らなければならない。さらなる冒険が、私を呼んでいた。

もう行かなくては。

私は身振りでハイちゃんたちにそう伝えた。少し寂しそうに顔を曇らせたハイちゃんは、急に照れ臭くなったのか、近くの木の陰に隠れ、こちらを見ながら

バーイッ!!!

と言った。そう、お別れだ。それから私がカメラや荷物をリュックにしまうと、バーイッ!!!ヘルメットをかぶるとバーイッ!!!バイクのエンジンをかけるとバーイッ!!!と、何度も何度も元気な声で別れの挨拶を口にした。

最後に私もとびっきりの大きな声で

バーイ!!

と返すと、振り返らずにその場を離れた。後ろの方から、何度も何度も、バーイッ!!という大きな声が聞こえるような気がした。

・・・

チャンパーサックからパークセーへ戻るのは早かった。道もわかっていたし、ガソリンも満タンだったからだ。15時半ごろ、パークセーの街に戻ってきた。

パークセーはさすがに交通量も多い都会だ。道も広く、走りやすい。

パークセー最大の寺院、ワット・ルアンを少しだけ散策した。

バイク屋のお姉さんと合流して、バイクを返し、パスポートを受け取った。これで、パークセーでやるべきことは終わった。後は、このあとどうやってヴィエンチャンに行くのかを考えるだけだった。

腹が減っては考えもまとまらぬ。時刻は16時前、遅すぎる昼ご飯だ。

空港から飛行機で行くか、明日の朝出発の乗合バスに乗るか。そうなると、このパークセーにもう一泊する必要があるかもしれない。安宿を探し始めた私は、一軒の旅行代理店のデカデカとした看板に目を留めた。そこには、こう書かれてあったのだ。

Pakse to Viang chan 20:00~ (Sleeping Bus)

パークセーからヴィエンチャン行。20時発。(スリーピング・バス)

スリーピング・バス。

実に魅力的なカッコ内のその単語に釣られて、私はその店の扉を開けた。

 

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