20か国目エジプト入国と、憧れのピラミッド巡り
プロローグ
ゴールデンウィークに突入する金曜日の夕方。この日東京は妙に暖かく、気分の良い1日だった。これから向かう灼熱の砂漠地帯に比べればまだかわいげのある気温である。
ゴールデンウィーク前日の夜だというのに、成田空港は記録的な円高の影響か、人影もまばらで静まり返っており、ランドスタッフが淡々と旅行客をさばいていた。
今回の旅はエジプトエアを使用し、成田からカイロを経由してドバイへ向かう。香港やマニラを経由する便もあったが、カイロ経由の便が直接カイロへ向かう単体チケットよりも安かったので、アラビア半島旅のついでに、エジプトにも立ち寄ることにした。
飛行機は2時間遅れ、22:40に成田空港を飛び立った。待ち時間は長かったが、これから始まる冒険へのワクワク感の方が勝っていた。
成田を出発した飛行機は13時間、空を飛び続ける。
久しぶりの長距離フライトだがフルキャリアのためかシートピッチは広く快適だった。機内食は2回、そして私の爆睡中にサンドウィッチも配られたようであった。
エジプト航空は天空の神、ホルスのロゴがかっこよすぎる。
機内を見渡すと日本人が多く、こちらまでワクワク感、高揚感が伝わってきた。私は少しでも体力を温存しようと、1秒でも多く寝ることに努めたが、ついぞ深い眠りに就くことはなかった。
・・・
朝の強烈な日差しが目に入り、否が応でも目が覚めた。
カイロが近づくにつれて、それぞれのツアーのアテンダントと思われる人たちが座席の間をせわしなく動き回り、客たちに旅程の説明をし始めている。
ふと窓の外を見ると、眼下にはエジプトの大地が広がっていた。
何度飛行機に乗っても、着陸の瞬間が一番怖い。
飛行機は成田での遅れを取り戻すことは無く、2時間遅れの7時半ごろ、アフリカの大地に翼を降ろした。この日の23時にはドバイに向けて旅立つので、エジプトには約18時間の弾丸滞在である。
アライバルビザを購入し、10名ほどの入国審査列に並ぶとほどなくして呼ばれ、無事、通算20か国目エジプトに入国した。
ナイルの恵み
カイロ空港の悩みはと言えば、鉄道が通っていないことであった。空港前にはとにかくタクシードライバーがうろつき、我々のような大きなネギを背負ったカモを待ち構えている。
カイロ空港はターミナルが4つに分かれており、それぞれを循環バスが結んでいる。空港の案内看板が実に不親切で、どうすればカイロに行けるのか、さっぱりわからなかった。件のタクシードライバーたちはとにかく客を乗せたいがため、タクシーを使え、と何の参考にもならないアドバイスを投げてくる。
カイロ市内へ向かう路線バスを探してしばらくさまよっていたが、機内泊の疲れもあってかだんだんと疲れてきたため、貴重なエジプト滞在時間をここで消耗するのはもったいないと、あきらめて素直にタクシーでギザに向かうことにした。25ドルであった。
空港を出て30分もすると、カイロの街並みが見えてきた。
前回の海外旅行から間が空いていた私は、異国の風景に明確にテンションが上がるのが分かった。しばらくは車窓に目を奪われ、口数も少なくなる。
ナイル川に架かる橋の上で車を停め、写真を撮った。
初めてみるナイル川は砂泥で汚れているということもなく、思ったよりちゃんとした普通の川だったが、古代からエジプト文明を支えてきた力強い水流に、心が洗われるようであった。
9時にはギザの街、ピラミッドが見えるところまで近づいていた。
ギザのピラミッドの手前まで来たところで、タクシーのおじさんに降ろされたのはいかにもそれっぽい、怪しげな店の前だった。観光地特有のアレだ。
内装を取り繕ったような悪趣味な装飾に囲まれた店の中で、ピラミッドの観光についてしきりと案内された。要約すると、ピラミッドは歩くときついから馬かラクダを使えということだった。よく言う、ピラミッド課金である。
300ドルか200ドルになり、150になり、100を切った。私はそういった類の課金はしないと決めていたので一貫して金が無い、金が無いんだと主張し続けた。
話を聞くと、ピラミッド同士は1km近く離れており、歩いて観光するとなるとかなり大変なのだそうだ。(これは中に入ってみると、実際そうだった)
私は店を出てギザの入り口の方へ歩いていこうとした。タクシー代だけ払って、実際歩いて観光するつもりだった。
じゃあ、70ドルでいいからっ!!これ以上は流石に無理だ!!
当初の価格から4分の1くらいまで目減りしたその価格を聞いて、私の心は揺れ動いた。今のドル相場を考えたら1万円、それでも結構な大金である。が、それで3時間ピラミッドの見どころを全部案内するとのことだった。
短いエジプト滞在時間の中で、課金して見どころをちゃっちゃと見学できるなら、それはそれでいいのかもしれない。ギザで馬車に乗るというなかなかに酔狂な体験だが、私は70ドルで手を打った。
もちろん、多少の損はしているのだろうが、それは大いなるナイルへの恵み、と思うことにした。
ピラミッドとゲートの簡単な位置関係を記した。
偉大な王の夢
ゲートを抜けると巨大なピラミッドが目に入り、月並みな感想ながら、感動した。
ゲートからピラミッドまではそこそこの上り坂で距離があり、息を切らして登る観光客の横を馬車で駆けのぼるのは気持ち良かった。
途中でガイドがチップをもっとよこせと不穏なことを口にしだしたので口論しようかと迷ったが、目の前にある王墓を楽しむことにした。
この眺めを前にして、いちいちケンカしていてもしょうがない。
クフ王、カフラー王のピラミッド付近は歩いても巡れるようになっており、大型バスも行きかい多くの人が訪れていた。紀元前2500年前の構造ととは思えぬ、均整の取れたピラミッドは、死ぬまでに見ておきたかった光景だ。
クフ王のピラミッドは近くで見ると石段の一つ一つが想像していたよりも大きく、人の背丈くらいはあることにまず驚いた。その気になればピラミッドのてっぺんまで軽々登れるものだと思っていたが、登り切る前に手も足もへとへとになってしまうだろう。
手前の人々と比較するといかに巨大な構造物であるか、わかる。
一周ぐるりと回るだけでも疲れてしまう大きさなので、正面からじっくり眺めて次へ行くことにした。ギザ・ビューポイントと呼ばれる場所で、小高い丘の上から3つのピラミッドを見下ろすことができるのだ。
ここまでの道中はかなりの上り坂になっており、また3つのピラミッドから離れているので、ラクダや馬でないと訪れるのは難しい。高かったが、払ってよかったと思った。行くまでどんな場所か知らず、全く期待はしていなかったのだが、ここからの景色がめちゃくちゃ良かった。
砂漠に佇む6基の王墓を見下ろす。映画のワンシーンのような光景だ。
ハムナプトラのワンシーンのように、エジプト王の墓が一望でき、主人公になったような気分になる。目の前の砂漠をラクダが悠然と横切っている。石棺とミイラはすでに運び出されているので王の遺骸はここには無いのだが、巨大な墓の下で、一人の人間が4000年間どんな夢を見ていたのだろうと、ふとそんな感想を抱いた。
ビューポイントを大きく下り、メンカウラー王のピラミッドの真下に降ろされた。3つのピラミッドの中では一番小さなもので、他の2つと比較して長さは半分、体積にすると8分の1になるという。ゲートから一番遠い位置にあるので、観光客が少ないという利点がある。
小さいとはいえ高さは62m。近くで見ると迫力はある。
ここにある王の墓はどれも約5ドルで中に入ることができる。ネットの口コミも、現地のガイドも中は何にもない、暑くて狭いだけだ!!としきりに言っているのだが、そういわれると入ってみたくなってしまうのが、人間だ。
私は入場料を渡すと、意気揚々と墓穴の中に飛び込んだ。
次の記事はこちら
前の記事はこちら
下のランキングボタンをクリックして応援していただけますと幸いです。
本サイトで紹介する情報は筆者の訪問当時の現地情報となります。実際に行ってみて変更や意見等がございましたら、コメント等でお知らせいただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
また、本サイト内の記述、画像、写真の無断転載・転用を禁止します。
コメントを残す